Annual Review
No.2 2000.5
リサーチダイジェスト

「自動接客機器の人間工学的研究」

高崎経済大学教授 岸田 孝弥

1. 研究課題名
自動接客機器の人間工学的研究

2. 研究目的
 高崎経済大学産業心理研究室では、日常我々が生活場面で使用する飲料自動販売機、自動券売機、ATM(現金自動預払機)などの自動接客機器が、日常生活でよく使用される家電製品(テレビ、ステレオ、ビデオデッキ、電子レンジ)や今後家庭でも多用されると思われるパソコンと、利用形態においてどのような形で区別されているかを調査し、報告した。調査結果によれば、現在自動接客機器を代表するものになっている ATM は、機械に馴染みの薄い高齢者や機械の操作を苦手とする中高年齢者にとっては、操作が複雑で使いにくい機械といったイメージがもたれていた。現在使用されている ATM のほとんどがタッチパネル式であることを考慮して、ATM利用者の行動を直接観察したいと思った。しかし、実際に調査するとなると、金融機関側の許可を得ることの困難さを考えてまず、従来から調査を許可していただいている JRで近年タッチパネル式の自動券売機が導入されていることに気が付き、JRの駅でのタッチパネル式自動券売機の利用者の行動を観察することにした。

 当研究室では、久宗・岸田により、既に押しボタン式の自動券売機の利用上の問題点については、操作性を含めた使い勝手の悪さについてや使用方法を提示するなどの改善についてなどいくつか指摘をしてきた。また、自動券売機の対人適合性に関する研究のための手法については、自動券売機の研究において、直接観察法をはじめとする数種の方法を用いて研究上、有効であることを確かめてきている。今回の一連の研究においても、タッチパネル式の自動券売機の JR各駅での導入状況を考慮し、高崎駅における新規導入という絶好の機会をとらえて、導入現場における利用者の行動実態を観察することにより、押しボタン式の自動券売機とタッチパネル式の自動券売機の操作性での問題点を明らかにするとともに、人間工学的アプローチによる自動接客機器のバリアフリー化を目的として研究を行った。また、この研究成果をもとに、高崎市内の金融機関での ATM 利用実態調査を行い、タッチパネル式自動接客機器の具体的問題点を明らかにした。


3. 研究1:高崎駅における自動券売機の利用実態調査

3.1 調査方法と調査項目
 調査は 1996年12月と 1997年12月の2年度にわたって行われた。調査の詳細は以下のようである。調査1: 1996年12月16、17日(月、火)両日、高崎駅東西両入り口にて実施。調査対象は、東口1〜6番機、西口9番機。調査2: 1997年12月9、10、11日(月、火、水)の7〜9時、10〜12時、13〜15時、16〜18時に高崎駅東西両入り口にて実施。調査対象は、東口2〜5番機、西口4〜7番機。調査項目は以下の項目にしぼって実施した。
(1)性別(男、女) (2)年齢層{子供(小学生以下)、青年(中学生以下35歳未満)、中年(35歳以上60歳未満)、高年齢(60歳以上)} (3)操作時間(単位/秒) (4)購入行動{問題無く購入、人に聞く、未購入/誤購入で券売機から離れる(台替えを含む)} (5)いつ未購入/誤購入で券売機を離れたか{操作開始前、操作開始後、誤購入後(券売機に触れた時点をもって操作開始とする)(97年のみ)} (6)使用貨幣{紙幣を含む、紙幣を含まない(96年)/紙幣、硬貨、カード、紙幣&硬貨(97年)}
 1996年12月と 1997年12月の2回にわたり高崎駅の出札用自動券売機の利用者について観察調査を行った。観察数 1996年 1,318人、1997年 2,491人

3.2 調査結果
3.2.1 利用者の年齢構成
 押しボタン式とタッチパネル式の自動券売機の利用者の年齢層を比較してみると、タッチパネル式の利用者は中年層や高年齢層にシフトしていることがわかった。

3.2.2 購入時の行動
 自動券売機の種類と購入時の行動をみると「他人に聞く」、「別の台に移る」などのトラブル行動は押しボタン式は 1996年で 7.4%、97年 6.9% であったのに対しタッチパネル式は 96年 20.7%、97年 13.2% であった。押しボタン式よりもタッチパネル式の方がトラブル率は有意に高かった。また、タッチパネル式でのトラブル率は 96年よりも 97年は 0.1%水準で有意に低かった。タッチパネル式では導入時に比較すると1年後には多くの人が使用法に慣れてきていることが示唆された。

3.2.3 購入時のトラブル
 購入時のトラブル行動について年齢層別にみると、タッチパネル式では高年齢層で「別の台に移る」は 96年の 9.6% から10.6% へと 1% ほど上昇しており、タッチパネル式に慣れた人ばかりではないことを示唆していた。しかし「他人に聞く」では 19.9% から 12.3% へと 7.6% 減少しており、確実に操作に慣れてきている人が増加していた。中年層では、「別の台に移る」は 11.4% から 9.0% へと 2.4% 減少し、「他人に聞く」が 11.2% から 4.8% へと 6.4% 減少していた。高年齢層よりも、新しい自動券売機システムに慣れていた。最も適応が良かったのは青年層で、「別の台に移る」でも 96年の 10.0% から 97年の 5.6% へと 4.4% 減少がみられた。

3.2.4 操作時間
 操作時間については、押しボタン式でも高年齢層は、中年層や青年層よりも時間がかかっていた。タッチパネル式になると、中・高年齢層の操作時間は、青年層や子供らの年齢層との間での有意差が認められた。中・高年齢層はタッチパネル式の操作に手こずっている様子がうかがわれた。

3.2.5 操作時間の性別
 男女別の操作時間の違いについては、押しボタン式については 96年の時には男子 17.67秒、女子 17.80秒で男女差は認められなかった。97年になると男子は 21.79秒で、女子は 17.05秒となり女子の方が操作時間が短かった。女子については購入する切符が近距離中心等の理由で短くなったものと思われるが、詳細についてはまだ分からない点がある。タッチパネル式については、96年は男子 28.89秒、女子 32.35秒で女子の方が長かったが、97年では男子 26.50秒、女子 22.98秒となり、男女とも操作時間は短くなっているものの、女子の方の操作時間の短縮が大きかった。女子の操作時間短縮については、やはり具体的な理由は分からなかった。今後の分析が必要となろう。

3.2.6 使用貨幣と操作時間
 使用貨幣と操作時間の関係をみると、紙幣と硬貨の併用によるものが 40.63秒と最も長かった。硬貨のみの使用は 18.03秒で、カードのみの 19.88秒より短かったのは意外であった。紙幣のみは 28.50秒であったから、コインを入れてカウントするよりも紙幣やカードを機械で読みとるまでの時間がかかることが時間差となって現れていた。

3.3 トラブルの要因
 観察中の利用者の行動の中からトラブルの原因と解決への糸口をみつけてみたい。タッチパネル式自動券売機の操作がスムーズにいかない原因として (1)「直接画面に触れてください。」などの表示やメッセージが全くない、(2)押しボタンとの併用が混乱を招く、(3) タッチパネルの反応が悪い、(4)選択肢が多すぎる、(5)省電力機能を使用停止と間違える、(6)画面上の字が小さくて読みづらい、(7)ほぼ全券種購入可能なタッチパネル式を券種別プレートで区別するという不可解な行動が混乱を招く等があった。特に若年層に比べ中高年層にはタッチパネルの操作に慣れていないようであり、画面を押すこと自体が解らない人も何人もいた。テレビゲームやパソコン等でコンピュータ慣れしている若年層と違い、中高年層の中にはディスプレイや電子音声に接するだけで混乱してしまう人もいた。

4. 研究2: JR東日本東京近郊区間の駅における自動券売機の実態調査

4.1 はじめに
 1995年JR東日本においてタッチパネル型自動券売機の導入が本格的に開始された。当初は首都圏が中心であったが、特急券や企画物周遊券などが1台で購入できるという、その多機能性は遠距離切符でこそ発揮されるとして、地方での導入も盛んに押し進められた。

4.2 研究目的
 タッチパネル型自動券売機の導入を中心に、従来型のボタン式券売機、連絡線や定期券更新など特殊機能を有した券売機の導入状況について現状把握を行なう。今回、主眼とするのは、券売機の操作上の問題点を示す指標ともいえる。現場改善例の傾向を探ることで、最終的には今後のハード開発への指標となるシステム、または設置環境に関する基準のあり方を検討し、自動券売機の使いやすさ支援の方策を明らかにすることを目的とする。

4.3 研究方法
 東京近郊区間の JR駅について、路線毎、個別に降りたって券売機周辺の状況を観察し、駅構内での券売機の台数やレイアウトを調査した。さらにバリアフリーの観点から、導入当初に問題となった、タッチパネル操作時の触感覚の減少による視覚障害者対応を軸に、障害者サポート設備として点字料金表の有無やTタイル設置数など、について実状を把握した。最終的には、券売機操作の使いにくさの指標として、券売機周辺に「後付け」で設置された操作手順や注意書きなどの数や種類を用い、その設置されている駅の特性と関連で設置の理由などを考察する。

4.3.1 調査概要
 調査の概要は以下の通りである。
実施時期: 平成10年7月28日〜30日
調査対象: 首都圏内11路線(高崎線、山手線、京浜東北線、中央線、総武線、京葉線、横浜線、南武線、武蔵野線、埼京線、常磐線)の 223駅の改札口、および券売機設置状況(設置数やレイアウト、改善事例など)
調査項目: 改札口、自動券売機、料金表示、窓口業務、点字サポート等の実数把握、券売機周辺の標示に見られる改善例を逐一写真に撮影、レイアウト概略の記述、といった7分類、12項目(記入箇所は 27)にわたる。

4.4 結果

4.4.1 タッチパネルの設置状況
 実際に導入されたタッチパネル型券売機の使われ方はどのようなものなのか、機器本体以外の現場における改善点の事例から評価を試みた。タッチパネル型券売機の周辺で行われている現場改善としては、まずは導入当初に見られたような、説明要員としての駅員の立ち会いなどが挙げられる。しかし、今回の調査では、そうした駅は既に1つも無かった。続いて着目したのは、本研究の中核をなす、券売機周辺に掲示されている標示の数とその内容把握である。

 券売機の周辺標識と一口に言っても、近年、問題となった釣り銭窃盗に対する注意書きから、JR各社の広告など多岐にわたる。データとしてはコメントや図解説明など、文字的な情報で、券売機を取り扱う際の注意を呼びかけるものを中心に写真撮影し、資料を収集、最終的に自由記述により抽出した。その後、内容的に類似したものをグルーピングし「使用制限」、「使用法」、「定期券(定期に関する使用注意)」、「料金」、「広告(新発売切符やサービスなど)」、「連絡線(に関する注意)」、「釣り銭」、「入場券(の取り扱い)」、「その他」の9分類を手がかりに、集計した。また、今回はタッチパネル型操作での使いにくさを検討するのが主目的なので、調査対象路線のうち、タッチパネル型が多用される可能性のある中遠距離圏に広がる路線を有する池袋、大宮、新宿、上野、横浜を基駅とするエリアについてのデータのみを用いた。群を抜いて多いのが「使用制限」で、高額紙幣の使用など料金的な制限や購入可能切符の説明に関する制限などが多かった。続く「使用法」では、予想通り、「タッチパネル使用法」が圧倒的に多く、細かくは「お金は後から」、「お札は一枚ずつ」、「テンキーの使用法」などに、料金投入口や画面横、装置側といった、操作の過程で目が追い、そして実際に手で触れて扱う場所毎にシールのような形で貼り付けている例が多かった。以下、「定期」、「料金」、「広告」はほぼ同率で、「定期につながる切符の購入について」や、各駅に常設の仰ぎ見るタイプの近郊路線図付きや五十音駅名検索式の料金表ではない、手作りの小型料金表の張り付け、「トクトク切符の広告」などであった。また、「連絡線」については、ボタン型機であるがタッチパネル型に劣らず複雑な操作が要る、多段階選択式ボタン型券売機に「連絡会社線乗り継ぎ切符」の購入法を記したものが目立っていた。

5. 研究3:金融機関での利用者状況調査

 当研究室の中途視覚障害者に対するアンケート調査を見るとタッチパネル式券売機のパネル標示部分が中途視覚障害者にとり使いにくいこと、時には使用できないことがあることがわかったことから、タッチパネル式自動接客機器の問題点を明らかにすべく使用現場における実態調査を実施した。調査のための準備として平成11年4月〜9月にかけて、都市銀行7行と1地方銀行の合計8銀行の ATM のシステム、特に画面の内容(メニュー画面・入力画面)について、バックカラー、ボタンの色、ボタン上の文字の色、各銀行での項目数および項目の種類等を調査し、引き出し、預け入れ、残高照会などの一連の流れを分析した。この分析結果をもとに、高崎市内にある金融機関で実際の利用者の ATM の利用状況を調査した。

5.1 調査方法
 金融機関での利用者状況を把握するために、利用現場での調査を行なった。調査対象金融機関は群馬県高崎市内の金融機関である。調査日は 10月12(祝日明けの水曜日)・13(木曜日)、14(金曜日)日の3日間、調査時間は窓口が開いている午前9時から窓口が閉まる午後3時の間とした。ATM が見える位置から利用者の性別・年齢層・取引内容・利用時間・開始時刻と終了時刻・取引中での行動について観測した。

5.2 調査結果
5.2.1 利用者の性別、年齢別の人数
 高崎市内の金融機関での ATM の利用状況をみると、3日間での総利用者数は 607人でそのうち男子が 251人、女子が 356人であった。年齢別にみると中年が 367人と最も多く次いで青年層が 177人、高齢者は 63人に留まっていた。18歳以下の若年層は観察されなかった。

5.2.2 取引内容
 取引別・年齢別の利用者数をみると、どの年代も引き出しが他の取引内容に比べて倍以上の利用者がいることがわかる。青年層については引き出し以外では、預け入れ・振込みの利用者がやや多かった。青年層の利用者のうち、126人が上の3取引のどれかを利用していた。残りの 15人が残高照会・通帳記入を行っていた。細部にわたってみると「引き出し」の次には、「預け入れ」の利用者が多かった。これは中年層・高齢層と比較しても多かった。中年層については青年層と高齢層と比較すると通帳記入・残高照会の利用者の人数が多いことである。これは中年層に特徴的な結果であった。高齢層に関しては、「引き出し」についで振込みの利用者が多かった。なお、通帳記入についてみると、残高照会とは違い、引き出し・預け入れのついでというのではなく、それだけを目的に来る人がほとんどだった。残高照会や通帳記入の取引内容では、直接お金を引き出したり、預けたりすることはできない。利用者の立場から考えるとたとえば支払いなどの銀行引き落としなどがあるため、それを記入しておく必要があると考えているためで、預け入れ・振り込みとほとんどかわらない利用者数がいると考えられる。また、通帳記入専用(通帳を入れるだけでパネルを押したり、画面の文章を読み込む必要もない)の ATM もあるし、全部の取引ができる ATM でも通帳記入・残高照会については、難しい操作はなく、短時間でできる。

5.2.3 利用時間について
 男女とも振り込みに最も時間がかかっているのがわかった。預け入れにかかるのは 55秒で、その2倍〜3倍の時間がかかっていた。具体的には、男性 175.56秒、女性 126.65秒で男女間に約 50秒の差があった。他の取引に関しては、男女間ではこれほど差はないから、かなり大きい差だと考えられる。この時間からわかるように、その取引にかかる時間が多ければ多いほど使いづらいということが示唆される。
 スムーズに取引を行うことが出来れば、通帳記入や残高照会・引き出しのように 30〜50秒ぐらいの時間で行うことができるのである。確かに、振り込みの方が通帳記入や残高照会・引き出しのメニュー構成より複雑にはなっているが、3倍も4倍も平均時間で多くかかっているというのは、どこかに使いづらい理由、つまり問題点・改善点があり、通帳記入・残高照会・引き出し・預け入れに比べて操作が複雑で使いづらいといえるのではないか。また、引き出しや預け入れなどでは見られなかったが、振り込みにかぎっては、何回も操作を間違ったり、途中で考え込み動作が止まってしまったり、最後には銀行の人を呼んだりという顧客が目に付いた。これは年齢層には関係なく、そのような行動が起きていた。

6. まとめ
 自動接客機器の人間工学的研究として、現在問題となっているタッチパネル式機器について、現場での利用状況から問題点を探ってみた。その結果メニュー構成や操作性だけの問題だけではとてもかたづけられない点がいくつかあることが解った。画面の色や文字・パネルの大きさ・画面での説明不足などの要素が重なってこのような結果になっているのだと考えられた。

参考文献
(1) 岸田孝弥、久宗周二、池上徹、松田文子、松井哲夫、水野秀樹、駅自動券売機の使いやすさとは!−東京近郊区間の駅における実態調査から−、産業保健人間工学研究、第1巻増補、pp.74-77、1999
(2) 岸田孝弥、武井昭、石井満、久宗周二、自動サービス機器のバリアフリー化のための指標作成に関する研究、高崎経済大学論集、41(3)、pp.15-33、1999
(3) 岸田孝弥、武井昭、石井満、自動サービス機器の評価・設計のための指標化システムの開発、高崎経済大学論集、40(4)、pp.135-158、1998
(4) 久宗周二、岸田孝弥、自動販売機のマシントラブルが機器使用時の意思決定に及ぼす影響、日本経営工学会論文誌、49(1)、pp..52-58、1998
(5) 久宗周二、岸田孝弥、自動販売機利用時の人間行動−自動券売機利用者のタイムスタディ調査結果をもとにして−、日本経営工学会論文誌、48(4)、pp..183-189、1997
(6) 久宗周二、岸田孝弥、自動販売機と高齢者、労働の科学、50(2)、pp.56-60、1995
(7) 久宗周二、岸田孝弥、高齢化社会と自動販売機、労働の科学、48(12)、pp.57-60、1993
(8) 久宗周二、岸田孝弥、自動販売機利用時の人間行動、高崎経済大学論集、34(4)、pp.111-134、1992