Annual Review
No.3 2001.5
リサーチダイジェスト

研究・技術開発組織における効果的なチームマネジメントに関する研究

九州大学大学院人間環境学研究院教授 古川 久敬

I. 研究の目的
 この数年、わが国の多くの企業組織において、日本的とされてきた旧来の各種構造、制度、およびシステムの改革が急がれている。その中で、流動性や機動性を特徴とする「チーム制」の導入と活用に対して高い関心が寄せられている。
 例えば、産業能率大学総合研究所(2000)の調査報告によると、1999年までの過去3年間で、約50%の企業において「部門横断的なタスクフォースやプロジェクトチームの活用」が実施され、そのうちの約8割、すなわち全体の40%が「有効に機能している」と評価している。また、残りの企業の約30%が、「今後3年以内に実施の方向で検討中」と回答している。
 本研究では、研究・技術開発組織をはじめとして今日導入が急速に進んでいる各種「チーム」の効果的マネジメントのあり方について検討する。これは、チーム形成とチームの発達過程、チームリーダーに期待される役割と行動、メンバーのモチベーションと学習、および創造性に対する効果性と潜在的な副作用などについて理論的考察ともに調査研究を実施することを通して行うものである。
 具体的には、本研究ではまずは、(1)チーム制の実態とチームリーダーの心理および行動を探索的に把握するための予備的なインタビューおよび質問票調査を実施する。これに続いて、これらの予備的研究の成果を踏まえて、(2)プロジェクトチームのリーダーを対象として、プロジェクトチームの業績を規定するチーム特性要因を解明するための質問票調査を実施し、その分析を行う。これらの研究成果をもとにして、最近のIT技術の利用可能性とも関連づけながら、効果的なチームマネジメントのあり方について検討したい。

II. チーム制の実態把握のための予備的研究
 企業組織における「チーム」が現在どのような状況にあるのかを探るための2つの予備的研究を行った。
 その第1は、複数企業のチームリーダーに対するグループインタビュー調査である。その第2は、そのグループインタビュー回答者とともに、我が国の大手コンピューターメーカーのチームリーダークラスに対するアンケート調査を実施した。
 以下に各予備的調査の概要とその結果を示す。

1. グループインタビュー調査とその結果概要
(1) インタビュー調査の概要
 調査時期は2000年8月14日(18:00〜20:00)で、調査対象は首都圏の大手コンピュータ、製造、製薬、ベンチャー、通信関係企業において現在活躍しているチームリーダー(職位は主任〜部長)8名であった。

(2) 調査結果
 2時間という時間的制約があったが、チームの現状、チームリーダーとしての感想や問題点、チームリーダーとして望ましい特性などを中心に、自由に発言してもらった。その要点は以下のとおりである。

【時空間について】
 「時間が命」(製薬)、「短い期間での完成が求められる」(コンピュータ)など、タスクの時間的制約、「メンバーが物理的に離れていることの難しさ」(通信)というメンバーの物理的近接度についてのコメントが見受けられた。

【関与者と境界】
 「メンバーの境界が不明瞭」(製薬)、「責任と実行の不明確さ」(通信)、「プロジェクト・オーナーやスポンサーの存在」(コンピュータ)、「フェーズによって人数が変わる」(製造)など、誰が当事者であり、誰が関与者であるかについての議論があった。すなわち、タスクの時間的制約が明瞭な反面、チームの境界や関与者は、一意的に設定することができないという困難さが存在する。

【意志決定と評価】
 上記のような境界のあいまいさは、意思決定と評価の問題に連動する。「メンバーの評価・処遇の問題が難しい」(ベンチャーキャピタル)、「意思決定の当事者が不明瞭・不安定」(複数)など、「評価」を誰がどのように行うか、「決める」しくみづくりをどうするかについて、多くの時間を費やして議論された。

【コミュニケーションとリーダーシップ】
 こうした問題点を克服する可能性のひとつとして、「最初の方向づけ、意識づけ」(通信)、「情報の流通を良くすること、共通技術による支援」(製造)などコミュニケーションの重要性が議論された。特に、初期段階でのタスク環境に関する認識のすりあわせ、ビジョンの共有が不可欠であるということが確認された。
 望まれるリーダーシップとしては、「強力なビジョンを持つこと」(製造、ベンチャーキャピタル)、「どのようにそこへ行くか」(製造)という「見通しとシナリオプラン」(コンピュータ)あるいは「成功ストーリー」(通信)を持つ人材が必要ということである。また、「本質の見える人」(製造)、「小さな変化に惑わされない」(コンピュータ)など、洞察力の重要性を指摘するコメントもあった。さらにここで注目すべきは、「技術的なリーダーと管理的なリーダーの二頭立て」(通信)、「サブリーダーをつくる」(製薬)、「管理者とは違う」(ベンチャーキャピタル)など、マネジメントの機能との区別を明らかにし、必要があれば複数の人物がリーダーになる可能性も容認しているということである。

2 チームリーダーを対象とする予備的質問票調査とその結果概要
(1) 調査の概要
 調査期間は 2000年8月15日〜8月24日で、調査対象は前記のグループインタビュー対象者5名、および大手コンピュータメーカーのチームリーダークラス11名の合計16名であった。先のインタビュー結果を参考として作成した調査票(30問)に回答してもらい、その分析を行った。回答者が少数であるために、全体集計の結果のみを次に述べる。

(2) 調査結果
【時空間について】
@「チーム年齢」(チームが形成されてからの経過年数)については、3〜5年という回答がもっとも多く5名、次いで1〜3年、0〜1年の各4名となっていた。すなわち今回の調査においては、形成されて5年未満というチームがほとんである。これは、日本におけるチーム制の導入時期から見ても、了解できる結果であろう。
A「時間的制約」については、”非常に厳しい”という回答が4名、”少し落ち着いて取り組める余裕はある”という回答が9名、”特に時間的制約はない”とい回答も3名あった。また、チームが最終成果を上げるまでに想定される時間としては、1年という回答が9名と最も多く、5年より長いという回答は見受けられなかった。
B「空間的近接度」については、今回の調査結果では、”全員が同じ場所にいる”という回答が10名と最も多いが、”日常的には会えない”という回答も5名あった。残り1名は、”日常的には会える”という回答であった。

【関与者と境界】
@「チームメンバーの構成」については、”社内と社外の混成”が8名で、”社内のみ”という回答7名を上回った。残り1名は”ほとんど社外”という回答である。すなわち、少なくとも今回の調査結果をみると、ヴァーチャルチームという考え方は、既に日常的なものになりつつあるといえる。
A「影響力のある人物」については、「チーム活動には直接関わらないが、チームの設置や活動内容に影響力を発揮する人物」が”いる”と回答したのは13名で、その多くは”事業部長”、”部長”という直属の上司をあげている。こうした人々が、チームの設定・改廃の鍵を握る owner として認識されているということであろう。
Bメンバーの異動
 過去に異動が”あった”という回答が11名であった。今後のメンバー構成についても、”今後も同一メンバー”という回答はなく、”少し交代あり”が12名、”大幅に交代あり”が4名となっている。したがって、人(主体)という側面から見ても、境界は絶えず変化しているということができる。

【意志決定と評価】
@「リーダーの権限」については、リーダーとしての権限は十分だと感じているかという質問に対して、”ほぼ十分である”と答えた者が11名、”十分ではない”と答えた者が5名であった。”十分でない”ことの内容としては、”メンバー選抜の人事権”を挙げた者が4名と最も多かった。
A「メンバーの評価基準と最終成果の明確性」については、”はっきりしている”とい回答は6名であった。また、「最終成果の明確性」についても、”必ずしも明確でない”という回答が11名であった。グループインタビューの結果からも明らかように、意思決定と評価は、現実のチームを考えていく上での大きな課題であるといえよう。

【コミュニケーションとリーダーシップ】
@「ビジョンとシナリオ」に関係して、存在理由・ビジョンの明文化については、”している”という回答が7名、”していない”という回答が8名であった。また、成果に向けたプラン・シナリオを”描いている”という回答が9名、”描いていない”という回答が7名であった。いずれについてもほぼ半数ずつに分かれる。
A「初期段階の方向づけ・認識の共有化」について、”十分にした”という回答が7名、”十分にはしていない”という回答が7名とこれについても半数ずつに分かれていた。

【チームの成果の状況】
 あくまでも回答者の主観的な評価であるが、「現時点で優れた成果を上げているか」という質問を行った。結果は、”大いに成果を上げている”という回答が1名、”かなりの成果を上げている”という回答が11名、”あまり成果をあげていない”という回答が4名、”まったく成果を上げていない”という回答はいなかった。
 ”あまり成果を上げていない”という回答者4名について、詳細を分析したところ、以下のような共通点があることがわかった。第一に、最終成果が必ずしも明確ではないということである。第二に、メンバーの空間的近接度としては、全員が同じ場所にいるということである。第三に、初期段階での方向づけ・認識の共有化を十分にしていなかったということである。一方、「大いに成果を上げている」という回答者は、空間的近接度は成果をあげていないチームと同様、メンバー全員が同じ場所にいるが、チームの最終成果が明確で、初期段階での方向づけや認識の共有化を十分に行ったとしていた。

【予備調査まとめ】
 本研究では、我が国企業組織内のチームの実状について、チームリーダーを対象として探索的調査を行った。チームが成果を上げるための要因として、チームが取り組むタスクの成果の明確性と、初期段階での方向づけ・認識の共有化が重要であることが示唆された。一方、同じ「場所」を共有することがかならずしもチーム成立の条件ではなく、成果をあげる条件でもないことが確認された。

III. プロジェクトチームの業績を規定するチーム特性要因の検討
1 質問票調査の概要

 プロジェクトチームの業績を規定するチーム特性を明らかにするための質問票調査を実施した。これをもとにして「プロジェクトチームは、どのような特性を持っているときに、あるいはどのようなリーダーに率いられているときに、高い業績を上げるか」を解明するための分析を行った。
 首都圏に本社を持つ企業8社の協力を得て質問票調査を実施した。各企業内において、各種のチームを率いているリーダー88名から回答を得られたが、チームの規模の点で本研究の目的を満たさないと考えられた19名のデータを割愛した。したがって分析の対象となったデータ数は69であった。

2 質問票の構成
 前述した予備的調査の分析結果を踏まえて質問票を考案した(これは報告書に添付する)。
 質問票の構成は下記の通りであった。
(1) 従属変数−「チームの業績」(3項目:リーダーによる自己評定であった)
(2) 独立変数−10種類のチーム特性変数を設定し、リーダーの自己評定によって測定した。すなわち「チームの成果明瞭度」(1項目)、「ビジョン明瞭度」(4項目)、「ビジョン共有度」(2項目)、「チーム内のコミュニケーション機会」(3項目)、「メンバーのスキル水準」(3項目)、「メンバーの意欲水準」(2項目)、「時間的切迫」(3項目)、「メンバー間の相互協力」(2項目)、「メンバー多様性」(2項目)、「メンバー親近性」(2項目)、および「リーダーシップ強度」(4項目)であった。
(3) チームの属性変数−チームの集団年齢(チーム形成からの経過時間)、チームの形成契機(タスクフォース的チームか、部課制変更によるチームか)、チームの規模(メンバー数)、リーダーの経験年数、およびチームの職種を測定した。

3 分析結果の概要
(1) 全体的な傾向

@チームリーダーが、チームの成果を高めるための「鍵」として挙げることの多かった要因は、「課題、ミッション、目的の共有」であった。チームリーダーの60.3%が選択していた。これに、「リーダー自身の明瞭なビジョン・意見」(55.9%)、「チーム内の信頼関係」(42.6%)、および「メンバーの能力・専門性」(36.8%)が続いていた。
A今回設定した「チーム特性」としての10要因と「チーム業績」との相関係数を算出した。それらの関係性を、相関係数の大きさに着目して整理してみると次項図の通りとなった。
 「チーム業績」に対して直接的な関係を示したチーム特性は、メンバーの「意欲の高さ」と「スキル水準」であった。また「リーダーの影響力の強度」も関係していた。
(2) 集団年齢(チーム形成後の経過時間)の効果
 集団年齢(形成後8ヶ月以下、9ヶ月〜2年未満、および2年以上)別の分析を行った。形成後の経過が少ないチームにおいて、成果やビジョンの明瞭性やビジョン共有などの相互相関が強かった。経過時間が長くなるにつれ、チーム業績とメンバーのスキル水準や意欲水準との相関は強くなっていた。
(3) チームの形成契機の違いによる効果
 タスクフォース的チームか、部課制変更によるチームかによってチーム特性に違いが認められた。すなわち「メンバーの多様性」、「成果の明瞭性」、および 「時間的切迫」については前者で、逆に「メンバーの親近性」と「コミュニケーション機会」については後者で、それぞれ有意性をもって高かった。

IV. 本調査のまとめ
 企業組織においてチーム制の導入はこれから一段と、かつ急速に進むと考えられる。今回の調査研究では、チームリーダーを対象として、リーダーの意識とチーム業績を規定する要因を分析し、効果的なチームマネジメントに対する示唆を得ることができた。
 しかし、必ずしも研究・技術開発組織のチームマネジメントに焦点を絞ることができなかった。今回の調査項目および研究知見をベースとして、今後の企業組織にとって緊要の課題となっている研究・開発チームの効果的マネジメントのあり方について検討を深めたい。