Annual Review
No.8 2006.5
 リサーチダイジェスト
公共設備機器における
ユニバーサル・デザイン設計方法論に関する研究
早稲田大学理工学部経営システム工学科 教授 小松原 明哲
1.はじめに
 不特定多数者の利用する鉄道産業においては、公共性という観点から、ユニバーサル・デザイン(universal design 以下UD と略記)が強く求められる。
 UD はアメリカ人の建築家で、自身も障害を持つ故ロナルド・メイス氏により提唱された言葉であり、もともとは「特段の配慮をするというのではなくして、出来る限り最大限に、すべての人に利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」と定義されている。
 本研究では、不特定多数者の利用する設備機器をUD 設計する際の、設計推進上の方法論を明らか
にし、鉄道のUD 実現を支援することを目的とした。
2.UD 設計推進支援方法論
 (1)UD の考え方
 UD はデンマークを中心に発展してきたnormalization(ノーマライゼーション)の思想に基づくものである。公共性の高い施設、設備設計において、設計の無配慮により障害者等の利用が困難、不可能とならないよう、全ての利用者のことを考慮に入れて設計仕様を定めるというものであり、公民権運動の流れの中で生まれてきたコンセプトである。
高齢社会を迎えるわが国においては、高齢者の生活自立を図るためにきわめて重要であり、また、近年、
多くの企業は、高齢市場の確保、新製品開発の視点からもUD に注目している。

 (2)UD 推進のプロセス
 UD を効果的に進めるためには、ISO13407(JIS Z 8530:人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)に示される「人間中心設計プロセス」に従って、製品開発を進めることが望ましい(図1)。
図1 人間中心設計過程(人間中心設計活動の相互依存性 JISZ8530 を簡略化)
これは、人間親和性の高い製品開発を行うための設計開発プロセスを表したものといえ、利用者の利用状態を調査・観察して要求を定義し、その要求を実現するように仕様を定め、さらにユーザテストなどにより要求の充足、仕様の妥当性を評価することを求めている。
 公共施設等においてUD を進める際には、とりわけ、様々な利用者の、施設、設備の利用状況をつぶさに観察し、そのありのままの利用状況を把握し、要求事項を明らかとすることが重要である。この利用状況には、清掃、保守管理なども含まれる。ここに遺漏があると、“想定外の使いにくさ”という問題が生じる。
 利用状況の把握では、シナリオ作りが重要となる。鉄道であれば、切符購買から駅舎利用、車両利用、また、トイレ、売店利用の全てにおいてUD が保障され、連続的にUD が実現されていなくてはならない。
つまり利用シナリオ上で、UD 連続性をUD 要求として評価することが必要となる。

 (3)不特定多数者に対する対応
 不特定多数者の利用する設備において、前提とする利用者の設定との関係において設計値を定めるための考え方としては、以下がある。
1. 共通:分布する利用者の設計許容値の重なりが取れる場合。例)自動販売機の硬貨投入口、ボタン等は、子供、車椅子利用者、成人等の各最大作業域が重なった領域に設定する。
2. 分布の端点の安全側:利用者の分散が大きく重なりが取れない場合。例)公衆便所の男子便器の高さは、自立して用を足す子ども(利用者分布の中の小さい側)に合わせて設定する。
3. 平均:利用者の分散が大きくない場合。例)鉛筆の太さ。平均的な手の大きさに合わせることで、満足者数が最大となる
4. シリーズ化:利用者の分散が大きく、端点に設定すると、もう一方の端点の利用者の利用に支障が出る場合。例)階段手すりの高さ。背の低い子どもに合わせると、背の高い成人には著しく使いにくくなる。そこで背の低い人用、高い人用と複数設定する。
5. 寛容化:利用者の分散に応じて複数の方式を設定できる場合。シリーズ化の一種。例)切符自動券売機においては、硬貨投入後に発券ボタンを押しても、その逆であっても購入できる(操作作法の分散に対応)。
6. 機能展開:問題の生じる機能レベルより上位のレベルでの実現手段を講じる。例)切符をやめて、
IC カードにする。切符購買、切符取り扱いの要求を一気に解決できる。
図2 シリーズ化の例(背の低い人用、高い人用にそれぞれ設置された水飲み)
 (4)要求の重要度評価
 要求を実現するか否かに悩む場合には、その要求を実現しない場合にその設備において生じる負の効果の大きさにより評価されるべきである。例えば、切符券売機のボタンを大きくするという要求については、ボタンを大きくしない場合に生じる“押し間違いによる誤発券”“手に麻痺のある方の使用困難”などの問題が予見される。問題の大きさがUD 上看過できないのであれば、必ず実現しなくてはならない。
3.まとめ及び今後の課題
例えばスロープの傾斜角を始め、UD 実現に有益な設計基準値は数多く発表されている。これらの設計
基準値は、人間中心設計プロセスでいえば、設計解の作成の段階で有益なものである。一方で、利用状
況の把握と明示、要求事項の明示などの設計の上流段階での検討や、複数の要求の統合等については、
従来、検討が不十分な場合がみられた。この場合、ある人にはよいが別の人には使いにくい、といった
問題や、また鉄道であれば、一連の旅行の流れの中で、鉄道車両はUD 化されているが、駅舎はUD になっ
ておらず、結果的に旅行の目的が果たされない、というような利用シナリオが断続する問題が生じる。
本研究で明らかとしたことは、これら、総体としてUD を実現していくための支援方法論となるもの
である。
なお、本研究成果を実際の鉄道に当てはめ、当該鉄道のUD の状態評価を行うことを通じて、方法論
としての本研究成果を向上することが、今後の課題である。
【文献】
1. (社)人間生活工学研究センター編、ワークショップ人間生活工学第1巻、人にやさしいものづくりのための方法論(小松原明哲他、第5章:生活工学の方法、第6章:ユニバーサルデザイン)、丸善、2004
2. ISO13407(JIS Z 8530:人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)、2000
3. 小松原明哲、プロダクト設計のためのDesign Solution 検討支援の方法論について、人間生活工学2 (1)、38-41、2001