Annual Review
No.8 2006.5
 リサーチダイジェスト
有道床軌道における突き固め保守の在り方に関する調査・研究
(バラストの突き固め効果と突き固め以外の方法との比較)
東洋大学工学部環境建設学科 教授 須長 誠
1.まえがき
 有道床軌道の道床部であるバラストは定期的な突き固め保守が必要である。我が国で用いられているマルチプルタイタンパあるいはタイタンパは、締固めの際に安定しているバラストを破壊してしまうことの弊害は以前より指摘されている。そこでマルチプルタイタンパ等による締固めの効果を明らかにし、また諸外国で行われている他のバラスト保守との効果の比較を行い、今後の有道床軌道における締固め保守の在り方について、著者のこれまでの研究成果と収集した文献により検討した。
2.マルチプルタイタンパ等による締固め効果
1. タイタンパやマルチプルタイタンパによる締固めは、1回当たりの締固め時間の増加とともに締固め密度は増加するが、タイタンパでは30 秒以上の効果は少ない(図1)。
2. 道床更換後のマルチプルタイタンパによる締固めは、まくらぎ下深さ10cm 付近まででの効果が大きい(図2)。
3. マルチプルタイタンパによる締固めでは、タンピングツールの突き固め回数の増加とともに、道床バラストの細粒化が進行する。
4. 締固めに伴う道床バラストの細粒化は、道床バラストの摩損率に比例する。
5. DTS による締固めは、道床更換後のまくらぎ横抵抗の確保に有効である(図3)。
6. 道床更換後の列車徐行は、DTSによるまくらぎ横抵抗確保あるいは軌道沈下が抑制されることにより不要となる(図4)。
図1 タイタンパの締固め時間と密度 図2 深さ別の締固め時間と密度の関係
図3 締固めによる道床横抵抗力の変化 図4 道床更換後1日経過における軌道沈下量
3.締固めを伴わない軌道保守作業の効果
1. ストーンブロアによる軌道保守は、まくらぎ下の空隙に豆砕石を高圧の空気と共に吹き込むもので、マルチプルタイタンパのように安定した道床バラストの層を破壊しないため、締固めに伴う道床バラストの細粒化がない(図5)。
2. ストーンインジェクションはストーンブロアのハンディタイプのようなものであるが、ストーンブロアの作業車(図6)は13台稼働しており(1999時点)、イギリスの新しい軌道保守の方法となっているのに比べて、ストーンインジェクションは試験試行の域をでていないため、効果は不明確である。
3. ストーンブロアでは20mm程度の豆砕石を用いるが効果的で、軌道の品質が向上する。(軌道狂いでの標準偏差がマルチプルタイタンパよりも小さくなる)(図7)。
図5 ストーンブロアによる軌道保守のイメージ
図6 ストーンブロア工法の施工車両の概要
図7 高低狂いの標準偏差の推移
4.新しい軌道保守の在り方
 マルチプルタイタンパによる軌道保守は、レール面の正整には有効であるが、道床バラストを痛めること(細粒化) が分かった。また道床更換後にDTS を用いることによって道床横抵抗の確保と沈下が抑制できることより、従来必要であった列車徐行は不要となる。一方、ストーンブロアによる軌道保守は道床バラストを痛めつけず、また軌道の品質を確保するのに有効であるが、施工速度が速く、扛上量を大きくとれるマルチプルタイタンパの方が使い勝手はよい。したがって、重要線区では道床バラストの細粒化に伴って道床更換を行う必要があるが、種々の扛上量に対応できるマルチプルタイタンパが有効である。また重要線区でない場合は、扛上量の制約はあるが、道床バラストを痛めないストーンブロアの方が有効である。
5.あとがき
 世界での軌道保守はMTT による締固めと、ストーンブロアに代表される砕石充填とに分かれつつある。しかし、どちらがよいかは軌道保守に係わる種々の条件の違いのようにも思える。MTTが発達したオーストリア、スイス、ドイツではアルプス山脈の麓に位置し、道床バラストとして使用できる良質な原石があり、MTTのタンピングツールによる衝撃にも耐え、細粒化が生じにくい。しかし、イギリス、北米ではMTT による締固めにより細粒化しやすい原石を使用せざるを得ない。またイギリス、アメリカでは軌道扛上量がスキンリフトと言われるほど小さいことが多く、扛上量が少ないのに既存の安定した道床バラストを再配列させて新たな沈下を助長することはないと考えている。一方、高速鉄道を持つ日本、フランス、ドイツでは道床更換の周期は短く(道床バラストの石質に関係するが)、軌道扛上量が大きいMTT の方が使い勝手がよい。このため、道床更換あるいは総突き固めによって軌道沈下が初期の段階である程度生じるのは仕方ないと考えていた節がある。しかし最近では初期沈下を抑制するDTS が開発されたことより、状況は変わりつつある。 我が国の軌道保守がMTT 方式から大きく変わることはないと考えられるが、新幹線から地方ローカル線まで有道床軌道であれば同じ軌道保守方式(締固め方式)を行っているが、今後、ストーンブロアのような砕石充填方式を使用する環境が出てくる可能性がある。その際には、本調査研究が活用されることを期待するものである。
 
【参考文献】
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