Annual Review
No.9 2007.5
 リサーチダイジェスト
高齢化社会における鉄道輸送に関する調査・研究
神戸市立工業高等専門学校都市工学科 教授 橋本 渉一
1.はじめに
 鉄道輸送は、旅客・貨物ともに国内輸送の主力として、明治の開国から昭和までわが国の発展に大きく貢献し、第 2次世界大戦後の戦後復興期から経済高度成長時代までわが国の発展に大きく貢献して来たが、自動車保有率の上昇ならびに近年の全国道路網の整備に伴い、その輸送シェアは低下傾向にある。
  しかし我が国の大都市圏においては鉄道路線の整備が先行する形で市街地開発がなされており、これからも通勤通学輸送はもとより日常の旅客輸送に重要な役割を果たしていくものと考えられ、特に高齢社会においてはより利用され易い公共交通として期待されるところである。
  本研究では既存の関係資料を調査することにより、高齢社会を迎えるに際し、鉄道輸送の在り方を検討することを目的とする。
2.高齢社会の形成
 日本の総人口は2006年に 1億 2774万人でピークを迎え、以降長期の人口減少過程に入ることが推計されている。しかし、65歳以上の高齢者人口は2020年頃まで急激に増加し、それ以降2034年頃までおおよそ3,400万人台で推移するが、2043年にピークに達すると推計されている。
 高齢者人口の割合は2000年の17.4%から2014年には25%台に達し、日本人口の4人に1人が65歳以上人口となる。その後も低出生率の影響を受けて上昇を続け、2033年には30%台、2050年には35.7%の水準に達し、2.8人に1人が65歳以上人口となるものとみられる。
  このように総人口が縮小基調のなかで高齢者だけが増え続けることとなる。既に地方の小都市、町村部では高齢者人口の割合が高くなって久しいが、大都市圏においても 2010年頃までに現在の地方都市や過疎地並みの高齢化状況となりその後も増加傾向が続くとされている。(図1、2)
図1 日本の総人口の推移
図2 高齢者人口の推移
3.高齢者の生活環境と交通
東京都市圏におけるパーソントリップ調査によると、前期高齢者(65〜74歳)では1人1日あたり1.5トリップ以上となっており、後期高齢者(75歳〜)でも1トリップはしている。また10年の間に各年齢区分ともに増加傾向が認められることから、高齢者人口の増加と相俟ってトリップ総数は増加傾向にあると考えられる。(図3)
 高齢者の利用する代表的交通手段をみると、鉄道利用者は東京区部では20%を超え、周辺郊外部、地方都市へ行くほどに鉄道・バスの公共交通から自動車利用が増えてくる。
 内閣府の意識調査によると、近年高齢者1人の外出手段として自動車等の選択が増加傾向にあるものの、依然として公共交通機関も半数近くの高齢者によって選択されており鉄道の潜在需要は高いと考えられる。(図4)
 外出するにあたり障害となる理由として、公共交通機関の利用のしにくさを挙げる割合が高くなっている。また身体機能の低下からくる階段の昇降、段差の乗り越え等の乗換え抵抗の大きいことがあげられている。
 今後の高齢者増を考えると、鉄道利用に対する意識的、物理的障害を除去することが利用拡大につながるものと推測され、これら高齢者の移動制約を低減させていくことが社会的課題になってくると考えられる。(図5)
 高齢者の公共交通機関への潜在的需要は高く、利用の利便性に配慮し障害となるバリアーを除去していくことが、高齢者鉄道利用の増加へ結びつくことが推察できる。
図3 高齢者トリップ数
(東京都市圏交通協議会資料)
図4 高齢者の代表交通手段
(東京都市圏交通協議会資料)
図5 高齢者の外出時の障害(文献4)より)
4.ユニバーサルデザインに配慮したバリアフリー施策
 公共交通機関や建築物等のバリアフリー化、一定の地域内における施設等、およびこれら相互を連絡する経路の一体的・連続的なバリアフリー化を促進し、バリアフリー施策を総合的に展開するため、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(「バリアフリー新法」といわれる)が平成 18年 12月から施行された。
  高齢者の移動の円滑化を図るため、駅・空港等の公共交通ターミナルのエレベーター設置等の高齢者の利用に配慮した施設の整備、ノンステップバス等の車両の導入などを推進している。(表1、2)
表1 車両のバリアフリー化(文献5)より)
表2 駅のバリアフリー化(文献5)より)
 鉄道駅、バス・旅客船・航空旅客ターミナルにおけるエレベーター等バリアフリー施設の整備については、補助や日本政策投資銀行等による低利融資による支援を行うとともに、税制上の特例措置が講じられている。
  またノンステップバス、低床型路面電車等のバリアフリー対応車両の導入に対しては、補助及び日本政策投資銀行等による融資を行っているほか、税制上の特例措置を講じている。
  このほか、路面電車の超低床を実現するため、低床型路面電車(LRT)の狭軌超低床化に関する技術開発が国から支援されている。
  「交通バリアフリー法」に基ずく移動円滑化基準への適合性は 2004年度末で、鉄軌道車両は約 30%、鉄道駅でエレベータあるいはエスカレータを設置しているのは全体で 60%を超えた状況であり、鉄道駅の施設および車両に対してさらにバリアフリー化を進めていくことが、社会的に求められていることは以前として変わりない。
5.最近の鉄道施設の整備
 2006年に開業したつくばエクスプレス(常磐新線)では、ユニバーサルデザインに基づく設計により段差のない床、ゆとりある改札口、音声案内を備えた案内板、トイレ等の施設整備が行なわれ、福岡市交通局 3号線(七隈線)では、エレベーターはプラットホームの中心に設置し、車いす使用者等の動線ができるだけ短くなるよう配慮されている。
  JR富山港線から LRT路線として生まれ変わった富山ライトレールでは、利用者数は大幅に増加した。富山ライトレールの利用者数は平日で約 5000人、休日は約 5600人と以前の JR時代と比較すると平日で 2倍以上、休日で 5倍以上と予想を上回る乗客数となっている。特に 60代以上の高齢者では平日でJR時代の 3倍以上、休日では 7倍以上が利用するようになったと報告されている。この結果は高齢者に対する公共交通の在り方を示唆している。
6.まとめ
 少子高齢社会へと今までに経験のない形態を迎える我が国で、高齢者が個性と能力を十分に発揮し、外出機会が増加し安心で自立した社会参加が促されるためにも、鉄道利用の増加への施策を講じ誘導することは社会的需要に応じる事業である。
  従来より取り組まれてきた「ユニバーサルデザイン」の考え方を踏まえた、総合的な鉄道施設・車両のバリアフリー化、こまめな輸送サービスの提供が、元より安全な公共輸送機関としての鉄道の価値をさらに高めるための施策であると考えられる。
  鉄道ネットワークの確立している都市圏では車両入口までのバリアフリーなアクセス性向上が、今後の鍵になると考えられる。
【 参考文献 】
 1)厚生統計、「日本の将来推計人口」、2002.5
 2)内閣府、「平成18年版高齢社会白書」、2006.6
 3)国土交通省、「国土交通白書2006」、2006.4
 4)大成出版社、「交通バリアフリーハンドブック」、2002.12
 5)内閣府、「平成18年版障害者白書」、2006.6
 6)まちづくりと交通プランニング研究会、「高齢社会と都市のモビリティ」、2004.9
 7)運輸政策研究機構、「数字でみる鉄道2006」、2006.10
 8)鶴岡弘之、「都市再構築の起爆剤になる富山ライトレール」、日経ビジネスonline、2007.2